ロング・エンゲージメント 雑感特別編

3月12日(土)17:00 新宿のドトールにて

俺: …はい、つーコトで、ついさっき『ロング・エンゲージメント』を観て来ました。今回はゲストとしてジャン=ピエール・ジュネ監督作が大好きな友人のキノコ氏を迎え、対談形式でお送りします。…早速だけど、どうよ?面白かった?
キノコ氏(以下キ): 割と。宣伝見た時はラブを前面に押し出して、ジュネらしさが出てこないんじゃないかって心配してたんだけど、そうでもなかったな。ジュネ作品って、いつも冒頭で登場キャラのどーでもいい紹介をナレーションで語るじゃん?アレも健在だったし。
俺: なるほど。俺はずーっと戦争のシーンだけ観せてくれればよかったのに…って、思ってたなぁ。主演のオドレイ・トトゥとかラブ要素抜きで。
キ: 馬鹿だな。ジュネ作品の本質っては“S・F”なんだよ。“サイエンスフィクション”という意味でなく“すこし不思議”の略で*1。本作のラブストーリーだって、この“S・F”を語る上でのエッセンスとして用いられているだけで、監督がホントに描きたいのは少し大人向けの寓話やファンタジーなんだってば。
俺: それにしちゃあ、やけにベッドシーン多かったぞ。そのテのファンタジーを求めてる客はさぞかし引いたんじゃねぇの?
キ: アレはハリウッドの資本だからだろ*2アメリカがフランス人監督に期待するのって、大抵濡れ場とかのエロエロなシーンだから。
俺: そうなのか?だけどキミはジュネ作品の本質はラブじゃないって言ってるけど、実際、今までのジュネ作品って、一貫して異質な世界に於ける男女のピュアな恋愛を描いていると思うぞ。
キ: 『エイリアン4』は?
俺: …親子愛かな(笑)*3。ともかく、今回もベッドシーンとか満載なのに、最後はピュアな二人で締めるワケだろ?
キ: 確かに。ラストで子供時代の台詞をリフレインさせるのは、そういう意味も含まれるんだろうね。
俺: しかし、初日だというのに映画館ガラガラだったな。俺等が心配するようなコトじゃないんだろうけど、大丈夫か?
キ: 別に『アメリ』だって初日からドカンと客が入ったワケじゃないからな。これから口コミでジワジワと観客数を伸ばすんじゃないのか?リピーターとか。
俺: それだったら、こんなに劇場数増やさないで、『アメリ』同様に渋谷単館でひっそり上映すりゃ良かったんだ。これだと収支が合わないぜ。
キ: さっきも言ったけど、メジャーどころが出資してるから、そうもいかないんだよ。

良かったところ・悪かったところ

俺: 良かったところは、やっぱ、戦争シーンに尽きるわ。…ジュネ監督って戦前生まれだっけ?
キ: 確かデビュー作である『デリカテッセン』を撮った91年に45歳だったから、ギリギリ戦後生まれ。
俺: …何で資料見ないでスラスラ出てくるかな。
キ: 大ファンですから。
俺: まぁ、それはいいとして…、「良い戦争映画は戦争経験者の監督にしか撮れない」ってのが俺の持論なんだけど、ちょっと考えを改めたくなったな。あと、病院が爆撃を受けるシーンとかもスリリングで良かった。信管の触れる瞬間とかがマンガチックで。
キ: 俺は、良いところ…って、程のモノじゃないんだけど、脇役にジュネ作品の常連が出てくると、思わずニヤリとしてしまうね。本作に出てきたデブの神父は『デリカテッセン』で肉屋を、『アメリ』では意地悪な八百屋のオヤジを演じてたし、主人公の父親は『ロスト・チルドレン』のマッド・サイエンチスト役で『エイリアン4』では車椅子乗ってるヤツだし…。彼の作品を追っかけてると、そういうのが楽しかったり。
俺: へー、全然気が付かなかった*4。逆に悪いトコは、登場人物の多さかな。相関図が掴めないまま人名ばかりがぞろぞろ出てくるから、○○○って誰だよ!…ってカンジで。
キ: あー、それは俺もあった。顔と名前が一致しないのな。原作である小説を無理して詰め込んだ感じは否めないね。
俺: 観に行く前に公式サイトとか覗いて、登場人物を予習した方がいいかも。

採点

俺: さて、それじゃ締め括りとして、偉そうに採点とかしてみようか。キノコ君。5点満点だとして、本作は何点位かね?
キ: んー。2.5点ってトコかなぁ。
俺: あ、辛口だ。今まで散々ファンとか行ってたクセに。
キ: 今までのジュネ作品5本で順位を着けるとするならば、この映画は3番目あたりに落ち着くんだよ*5。だから、平均点ってことで。
俺: なるほど。俺は3点。今までは特殊な世界観とかそういうイロモノ的な部分しか評価してなかったけど、本作では戦争シーンのリアルさっつーか、生々しさみたいなのが描かれてて、新しい一面…とまではいかないけど、違った面を見せてくれたので、そこら辺でチョット評価高め。…こうなると恋愛とか抜きで、まっとうな戦争映画とかを撮って欲しいよなぁ。
キ: そんなコトしたら今までのファンが全部逃げちゃうってば。

締め

俺: …てなワケで、新しい試みとして、対談形式にしたんだけど、どうだろ?
キ: さぁ?現時点ではまだ形になってないし。
俺: 評判良けりゃまたやってみたいとは思うんだよ。月イチぐらいのペースで。
キ: うん、他人の評価はどうあれ、映画について延々とダベるのは嫌いじゃないし*6
俺: じゃ、来月は何観ようか?俺的には『コンスタンティン』辺りがいいと思うんだが…。
キ: あー、俺、最近そのテの映画は食傷気味なんだよな。
俺: あ、そう。では、また今度話し合って決めよ。
キ: そうするか。
俺: んじゃ、また来月。

*1:藤子・F・不二夫短編作品のキャッチフレーズ。

*2:本作はワーナーが出資。以前FOXの出資で『エイリアン4』を製作し、ハリウッド進出を果たしたものの、映画がコケてフランスに出戻り(…思うに、コレがトラウマで『ハリー・ポッター』の新作のオファーを蹴ったんじゃないかと思う)。で、『アメリ』がヒットして再びアメリカ出資でリベンジ。だけど…

*3:実は俺、『エイリアン4』は未見だったり。

*4:自慢じゃないが、外人俳優の顔を見分けるコトが苦手な俺は、彼のような楽しみ方が全く出来ない。畜生。

*5:因みに彼のベストジュネ映画は『ロスト・チルドレン』。俺は『デリカテッセン』。

*6:実際には色調の話とか主人公の妄想の話とか長々と話してたんだけど、纏まり切らないんで泣く泣くカット。結構盛り上がってたのに…。