ゆきゆきて、神軍 雑感

ゆきゆきて、神軍 [DVD]
・「そろそろ戦後60年を迎えるから、何か反戦を訴える様なモノでも観よう」と思って借りました。先々月、奥崎さんも亡くなったことだし。
・戦争映画の中でも隋一の残虐描写を誇る『プライベート・ライアン』のノルマンディー上陸シーンを観ても、「おおーすげー」ぐらいの感想しか漏らせない人でなしの俺ですが、これは別格。ドキュメンタリーな所為もありますが、初めて「戦争って怖ぇな」って思うコトの出来た作品です。
・何が怖いって、まず戦争を体験した人間そのものが怖い。“この世には戦争によって人生の歯車を狂わされた人間がいる一方で、戦争してた時に狂っていた歯車を修正して何も無かったコトにする人間がいる”という事を実感させる内容で、戦争の根深さを知るには最適。コレを観ると、俺等が祖父から聞いた戦時中の話なんて、トラウマの中でも昇華できた部分だけで、きっと、その3倍陰惨なコトがあったんじゃねぇの?って思える。今は近所でのほほんとしてるじーさんだって、実は戦場で生き延びる為に相当エグいコトしてて、そうした人に言えない秘密を抱いたまま墓穴に入っていくのかもな…。とか、要らぬ想像までしてしまう。
・流れとしては極限状況下に起こったと思しき戦争の暗部に迫っていく話ですが、会話の殆どが「やった」「やってない」或いは「話せ」「話したくない」の水掛論でしかなく、それが延々と続くのでディベートとしても見応えがあるワケではない。が、時折顔を出す狂気や、日常の中の非日常にしばしば戦慄を覚える。
・例えば、戦死した兄が、実は食糧不足で“共食い”に遭ったのではないかと疑念を抱き、嘗て同じ部隊に所属した上官や同期に遺族が問い詰める場面。「何を根拠にそんなコトを言うのか?」と訊くと、真顔で
「死んだ兄がやってきて私にそう伝えたんです!」
と応える。…うわぁ。なまじ被害者なだけに、誰も「アンタ、そりゃ電波だよ。」って言えない。怖ぇ。
・そんな怖い人達の中でも、やはり本作の主人公とも呼べる奥崎謙三が一番怖い。自分が戦地から戻って来れたのは、他ならぬ神の意思であり、(自分の中にいる)神様の忠実な尖兵として天皇の戦争責任を追及しようと画策、挙句パチンコで狙撃したという経歴を持つ人物で、その為か左翼の先生方からは偉い評価されてるっぽいんだけど、俺的には極左の更に彼岸に位置する人間だと思っている。

ニューギニアで散った戦友の母に対し優しく語りかける一方で、戦犯者(と思しき人物)を偏執的に問い詰め、それでも口を割らないと病人だろうとぶん殴る容赦の無さには、狂信者以外の言葉が思いつかない。そして、どこまでが計算なのか判らない彼の行動が、衝撃的なラストを提供してくれている。
・兎にも角にも戦争を知らない世代必見。四年も戦争が続けば、人は容易くオカシクなれる。