シーバース 雑感


・確かデビッド・クローネンバーグの処女作。既に『シーバース』のタイトルでビデオ化しているにも関わらずGyaOでは『恐怖の人喰い生物』なんてトンチキな題名に変更されている。これは恐らく、70年代にTV初登場した際のタイトル『SF人食い生物の島/謎の生命体大襲来』に因んで付けられたのだろう。
・…だが、今になって態々改題を施す必要があるんだろうか?当時は劇場未公開だったし、情報も少なかったからインパクトを重視する理由があっての改題だと思うが、今ではそれなりに名の知れたクローネンバーグなんだし。…まぁ、クローネンバーグの“ク”の字も知らんようなゲテモノ好き初心者へのアプローチなんでしょうが。
・人に寄生して肝臓の機能を代替してくれる生物の移植実験をしていた博士とその被験者が変死を遂げる。どうやらその生物に寄生された人間は凶暴になるらしく、性交した相手に次々と感染し、ゾンビのように増殖を繰り返していく――という話。
・閉鎖された空間で凶暴化した人間に襲われるという設定から、しばしば『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』の亜流として捉えている寸評が目に付くが、“リゾートマンションの住民が暴徒と化し、棟全体が無秩序状態に陥る”という設定は寧ろ、高層マンションの住人が食人族へと変貌するJ・G・バラードのSF小説『ハイ-ライズ』辺りが元ネタだろう。クローネンバーグ監督は後に同作家の『クラッシュ』を映画化しているから、結構当時から影響とか受けたんじゃねぇかと思うし。
・しかし、デビュー作から一貫して内臓と死と歪んだエロスを命題にしている監督だよなぁ。本作では怪物化していく人間の恍惚とした表情からも判る様に、悦楽に溺れ、血を渇望する群像を丹念に描くし、ライヒも裸足で逃げ出すような“性の解放”論を標榜させてる。それに反し主人公の扱いは窮めてぞんざいだったり。70年代とは言え、よくこんなモンお茶の間に流せたよな。
・ところで本作は日本語吹替版だったんだけど、もしかしてコレって当時の音声なんでしょうか?だとすると物持ち良いな。