ナイト・オブ・ザ・リビングデッド 最終版 雑感

ナイト・オブ・ザ・リビングデッド 最終版 [DVD]
・オタクってのは“特別編”とか“限定版”みたいなレアモノっぽい響きのする単語に弱い。そんなんだから、よく“初回限定バージョン”と銘打たれた、特典がてんこ盛りの単行本やエロゲーとかを、通常版と一緒に買う輩が多かったりする。俺の身近にも過去に限定版欲しさにアキバに徹夜で並んだ友人を一人知ってる。…ま、こういう行為はメーカーへの布施みてぇなモンですから、別に良いとか悪いとか一概には言えませんが。
・で、そうしたオタク心を擽るかの様に“最終版”と銘打たれた本作は、オリジナル公開30周年を迎えた99年に新たに撮り直したカットを挿入して公開したバージョンらしいのですが、コレが世に出た当初から、各所でブーイングと酷評の嵐を呼び起こし、見事に愚作のレッテルを貼られたしょーもない作品でして、曰く「これは名作のオコボレを貰おうとしたハイエナ共の作ったオリジナルへの冒涜」だそうな。当時、そうした批評をいち早くキャッチできた俺(中二の頃『ゾンビ』観て漢泣きした位のゾンビ好き)は、見事にリリースされたビデオをシカトし、腸の煮えくり返る思いを回避できたワケです。めでたしめでたし。
・さて、月日が流れ、俺はレンタルビデオ屋で駄作を借りても、それなりに楽しめるくらい心に余裕の持てる大人になりました。まぁ、大学に入ってから、もっとヒドい自主映画とかたくさん観てきたしねぇ…。そんなワケで「ツマラン映画に手を出しても怒らないような、広い心が培われてる。」という自負があったので、今回6年の時を経て借りてきたんですけど…うわ、誤算だ。オリジナルの思い入れがある分ダメージがデケぇ。観終わった後、内容とは別の次元でヘコんでしまった。
・…いやぁ。ホント台無しだよ。制作スタッフだからって何してもいいってモンじゃねぇだろぉ。最も味のあるオープニングを差し替え、トンチキで蛇足なオチを継ぎ足すセンスが判らない。もうね、冒頭のビデオ撮りっぽい画質が出てきた時点で既に萎えちまうんだ。オリジナルの部分では音も入れ直してるみたいなんだが、違和感を拭えないし…。正に改悪。どうやら撮り直した部分は監督であるジョージ・A・ロメロが全く関与してないものらしい、ファンを舐めてんじゃないのか?…ああ、これだけ悪口ばっか書いても溜飲が下がらねぇ。
ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド デジタル修復版 [DVD]
・あんまりなんでオリジナルの評価を加えておこう。本作は“人肉を喰らう”“頭部を破壊すると活動を停止する”といった、現代ゾンビに於ける数々の規範を確立させた記念碑的作品(だと思う)で、そのショッキングな内容もさることながら、モノクロの画面が闇の中で大量のゾンビが蠢く様を効果的に捉えている(ハッキリ映らないから逆に想像力を掻き立てる)。
・また、劇中で度々挿入される報道番組の使い方が巧く、流れるニュース映像だけを見ると、まるで事態が収束しているように錯覚してしまう*1。喋ってるキャスターの下に避難所が書かれたテロップが延々と流れる冷淡さもリアルで怖い。
・他のゾンビ三部作でも同様のコトが言えるが、ホラーでありながら、物語が静かに暗転していくのも特徴的である。そりゃ、女性はヒス起こして喚くし、突然大きな音を出してビビらせるシーンもあったが、基本は温度の低い淡々とした展開で、「案外、人類が滅びるのってこんな静かな調子なのかもね」って思えてくる。
・とにかく観る者に恐怖と絶望感を植えつけ、後には何も残らないヘビィな傑作となってます。
間違っても“最終版”は借りないこと。

*1:実際、収束されてるのかも知れんが、本作が『ゾンビ』の前身であるとするのなら、事態はどんどん悪くなるハズだ。