ありふれた事件 雑感

okmonster2005-05-09

・殺し屋の日常に迫る…というフェイクドキュメント。公開当時、「後味が悪い」とかネガな批評が多かったので、観賞後はある程度不快な気分に陥るのを覚悟して観ていたのだが、まさかギャグ映画だったとは思わなんだ。当時(94年)はどうか知らないが、今では人殺しをギャグにしたり、モラルを問うようなユーモアはそれ程珍しくも無いからねぇ*1。…まぁ、コレを笑って観れるのは俺が相当悪趣味な人間だからだろうけど*2
・確かに小金をせしめる為に仕事と割り切り、せっせと庶民を殺す姿は確かに不気味だが、「よく捕まらねぇよな?」って位に粗っぽい手口。酒の誘いを断られると途端に不機嫌になる器の小ささ。衒学的で自己を大きく見せようと、“仕事”の最中なのに下手糞なポエムを詠い、挙句、「お前ら、ゲイなんじゃねぇの?」とクルーを冷やかしたと思えば、「…まぁ、俺はお前らがゲイでも構わないんだけどな。」と微妙なカミングアウトをしたりと、カリスマ性ゼロの卑小な中坊みたいな殺し屋なので、ちっとも恐ろしくない。
・撮影クルーもクルーで底の浅い素人連中ばかり。普通、ドキュメンタリーを撮る際は、公平さを保つ為、被写体との距離を一定に保つ事が大事だと云われてる。だから殺し屋と一緒に酒場で打ち上げをやってる時点で、感化されるのは必至なのだ。結果、殺人の片棒を担がされ、録音係を殺される。それなのに、スタッフ全員“我々は今、世紀の傑作ドキュメントを制作してる”と信じて疑わない。これがギャグじゃなくて何だと云うのだ?
・本作で素晴らしかったのは音の配置に工夫が凝らしてある場面。録音スタッフとカメラマンが別々の場所に立っている設定なので、遠くの発砲音が大きく、近くの声が小さく聴こえるのだ。こういう芸の細かさを体感する為にも、是非、ヘッドフォンで聞くべし。

*1:こうした傾向が多く見受けられるようになったのはタランティーノ以降だと分析する批評家は多い。

*2:そう思ってたんだが、他の寸評とか見ると「笑える」って意見も結構多かったり。