いつでも山田はゾンビ 終らない素敵なル−プ

ドーン・オブ・ザ・デッド 感想
今まで、これほどカッコイイ“世界の終わり”を描いた作品があっただろうか?
冒頭、CM出身の監督特有な短いカット割り、挿入されるニュース画面(殆どが実際の暴動の映像らしい)、箱庭かシムシティーのゲーム画面を眺めてるような俯瞰撮影などが効果的に使用され、世界が滅んでいく様子を、実にスタイリッシュな演出で見せています。もうこれだけで掴みは十分。あとは畳み掛けるように、ホープレスな結末に向かって全力疾走していきます。詮無い事で、どうしてもリメイク元である『ゾンビ』と比べてしまう傾向を見せてしまうのだが、オリジナルが「長距離走」だとすれば、本作は「短距離走」といった感じか。
決定的な違いは、ゾンビを徹底した悪役としている点だろうか?
オリジナルでは、“秩序が崩壊した世界で無法を尽くすバイカー集団”という、人間の悪者が用意されていたが、本作では、今まで数が多いだけの愚鈍な存在であったゾンビの戦闘能力(主に敏捷度)を上げることで、人との敵対関係を強調させ、人間同士の対立の余地を与えないように工夫している。
それと先刻も書いたが、全編通してなされている細かいカット割りが全体のテンポを速めて、登場人物をじっくり描く事を極力避けている点が大きな違い。「ゾンビに噛まれた父と娘の家族愛」とか、「妊婦ゾンビから産まれた赤子」とか、掘り下げれば幾らでもヒューマニズムを訴えるような人間ドラマが作れるのに、監督はそんなモンに毛ほども興味が無いのか、敢えてそうしなかった様子。ある意味正しい。
あと、ゾンビ映画なのに、人肉喰らってるシーンってのが少なかったな。確かに、ゾンビの連中は人を襲う時に噛み付いてくるんだけど、こう、ボリボリと貪るシーンってのが無かったね。『テキサス・チェーンソー』の時も思ったけど、カニバリズムって今の時代は表現し辛いモノなんでしょうかね?(*追記・今の御時世じゃ、食人シーンを徹底するとアメリカでは17歳未満は入場禁止を喰らうらしい)
まぁ、こういう映画は、フィクションと割り切って多少ハラハラしつつも対岸の火事を見物するみたいに観賞するのが一番。本編に即して具体的に言うと、クライマックスに於ける“チェーンソーの事故”を、悪趣味なギャグとして笑い飛ばせる気概を持てるかどうかで、楽しみ方が違ってくると思います。
私的な話で恐縮ですが、今週の俺は私生活でロクな目に遭っておらず、何かと鬱憤が溜まっておりましてね、こうして不謹慎と知りつつも、銀幕の中で右往左往四苦八苦してる連中や、容赦無く頭を打ち抜かれるゾンビ共を観ていると、「ああ、世界の破滅に比べれば、俺の鬱屈した気持ちなんてミクロなモンだなぁ」と思ってしまいます。世の中に不満を抱いている人は観に行った方が良いのでは?多少気分が和らぎます。
ところで、予告編やポスター等で使用された、“曇り硝子に手のシルエットがベタベタ張り付いてくシーン”が、劇中には無かったです。そう言えば前作でも似たようなスチールカットがあり、確か(映画秘宝で)東宝東和の社員がやっていると書いてあったのを見た憶えがあるのですが、今回も、社員の方がゾンビの真似事をやっていらっしゃったのでしょうかね?相変わらず東宝東和は宣伝がユニークだ。